皆さん、最近は「秋勝り型の稲」という言葉をあまり聞かなくなったと思いませんか?

 

 その他にも、長年東北において猛威を振るっていた「やませ」という言葉も、平成のコメ騒動と言われた1993年を境に耳にした記憶がありません。「やませ」が消えた理由には、品種改良によって冷害に強い稲が開発されたり、栽培技術が成熟したりということもありますが、同時に「秋勝り型の稲」も消えつつあるのには、昨今の常態化しつつある異常気象、異常高温の影響があると考えられます。

 

 我々が子供の頃は(筆者は40歳になりますので、30年前、10歳頃の話ですが)、夏は確かに暑かったですが、木陰に入れば涼しかったですし、夕方になれば気温も下がり、熱帯夜でもなければそれなりに過ごせる環境でした。今はどうかというと、例えば海やプールに涼をとるために遊びに行くということが躊躇されるくらい日中は暑く、森の木陰に入っても涼しさを感じず、毎日が熱帯夜といった有様で、一息つけるだけの寒暖差がどこにもありません。この30年間で夏の環境は明らかに変わってきています。

 

 人間にとっても夏の暑さは厳しいものとなりましたが、環境をコントロールする手段の限られている稲にとってはより一層厳しい季節となりました。従来、稲は「日照りに不作なし」とも言われてきましたが、昨今の灌漑水すら熱湯のように熱くなる異常高温の中では品質低下が著しく、日照りに高温が続きすぎてそもそも水不足になってしまうといった状況が頻発するようになりました。かつては10年に一度レベルと言われていたような巨大台風が珍しくもなくなり、白穂や褐変の影響で不作に陥るといった事態が起こるようになってしまいました。

 

 

 これらが何を意味するかというと、昔に見られたように、夏の間に生育や品質や収量の巻き返しを図る「秋勝り型の稲」を目指すことが事実上困難になったということです。つまり、昨今の稲づくりは、初期成育のアドバンテージによって、いかにして夏を乗り切っていくかということに変わりつつあるということです。

 

 ここでポイントになってくるのが「初期成育をいかにして確保するのか」ということであり、つまり初期成育を阻害する最大の要因である「硫化水素ガスの発生」をいかにして抑制するかということになります。このような観点から、硫化水素ガスの発生抑制を念頭に置いた、「総合的な土づくり」を推奨したいと思います。

 

 

 当社は土づくり肥料メーカーですので、土づくりの一環としては当然、土づくり肥料の散布を推奨しています。しかし「総合的な土づくり」というのは、決して土づくり肥料の散布だけで完成するものではありません。例えば、稲刈り後の耕起作業の有無、そしてワキの発生の原因となる稲わらの処理をどうしていくのか、作土深をどれくらいとるのか、更には代掻きの程度とタイミングなど、土づくりと言える要素は本来、多岐に渡ります。

 

 農機によって土を耕したり代掻いたりといったことも、土壌の環境を変える行為であるという意味で立派に土づくりの一つと言えるのです。事実、作土深や代掻きの程度やタイミング等は、土壌の還元開始時期、速度やその程度に大きな影響を与え、初期成育を左右する硫化水素ガスの発生量の多寡に関わってきます。

 

 その上で土づくり肥料の散布によって出来ることは何かと考えると、作物に必要な肥料成分の補給や、土壌環境に何等かのプラスの影響(物理性や化学性の改善等)を与えることなどがあげられます。当社ブランドである農力アップの場合、利用効率の良いケイ酸の補給をメインに、酸性土壌の改良、各種微量要素の補給などが出来ます。稲に対するケイ酸の効果についてはここではあまり深く触れませんが、根の酸化力を強化し、稲体自体を強くするために必須といって良い成分になっています。

 

 

 今回、特に注目したいのは、農力アップに高濃度で含まれており、硫化水素ガスの発生を抑制する効果が期待できる鉄とマンガンです。

 

 水田では施肥由来の硫酸イオンは微生物(硫酸還元菌)の働きを受けて硫化水素ガスに変わり、稲の根に深いダメージを与え、下葉の黄化や枯れ上がりを引き起こし登熟不足による減収に繋がります。これがいわゆる「秋落ち現象」です。

 

 農力アップに含まれる鉄やマンガンはこの硫化水素ガスと結合し、硫化鉄や硫化マンガンとなって不溶化することで根に害を与えにくくします。

 

 

 稲は本来、非常に強い作物ではありますが、生育期間を通して弱い時期があります。それが田植え直後になります。この時期だけは硫化水素ガスの悪影響を強く受ける時期になり、かつて「秋勝り型の稲」に見られたような夏期での超回復を期待できなくなった現代では、最も気を使わなければならない時期にもなりました。

 現代の米作りでは、硫化水素という難敵を念頭に、土づくり肥料の散布だけではなく、細かな水管理や土壌環境の整理、更には代掻きや田植えの時期まで考えて、総合的に土づくりを考え実行していくことが必要になってきました。

 

 現在の環境に即した理想の米作りを目指す為にも、いま一度、土づくりから米作りを考えていきましょう。

 

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